FSHDになるとどうなるの?
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(facioscapulohumeral muscular dystrophy; FSHD)は、筋肉が徐々に弱くなっていく病気です。
筋肉の症状
ほとんどの場合は、顔、肩、腕の筋肉から症状が始まります。
そのため、顔面 facio 肩甲 scapulo 上腕 humeral 型と呼ばれています。
肩が上げにくい、腕が曲げにくい、寝ている間に目が閉じていない、笑顔が少ない、表情が固いと周りから言われることがあります。(それでもみなさんの笑顔は素敵です!)


口笛が吹けない、ストローがうまく吸えない、学校での前ならえのポーズがきつい、スポーツや楽器をやっていて上手くできない、できなくなったといった経験から気付くこともあります。

肩甲骨が羽のように浮き出てきます。これは肩甲骨を支える裏の筋肉が落ちるためです。
指先の筋肉や握力が落ちることもあります。

胸の辺りの筋肉が落ちることもあります。

これにともなって、みぞおちの骨格がへこむ、漏斗胸(ろうときょう)という状態になりやすいです。
漏斗胸が心臓へ影響することは通常ないだろうと考えられてます。
また、胸の周りの筋肉は呼吸にも重要なので、肺活量が低くなる方もいます。
夜間の呼吸量が落ちると睡眠に影響が出るため、呼吸補助器具を夜間だけ使用したり、常用使用する場合もあります。
このため、呼吸機能の定期的な検査が推奨されています。
また、腹部や足の筋肉にも影響が出ることがあります。
腹筋運動ができない、階段や段差がつらくなる、走れなくなる、走り方が特徴的、腰を前に突き出した姿勢になるといったことがあります。


低い椅子や地面から立てなくなった、お手洗いやお風呂が使いにくくなるということもあります。

また、つま先を上げる筋肉が落ちることで足首が垂れやすくなり、つまづきやすくなる危険もあります。
この病気により、およそ5人に1人程度が車椅子を使うようになります。
車椅子や歩行器の利用は、転倒や怪我の防止にも役立ち、通常の歩行と使い分ける患者さんも多いです。


症状の進み方
男性でも女性でも発症します。
急激に症状が進行することはないですが、少しずつ進行が続いてしまいます。
体の左右で筋肉の弱さに違いが出ることが多いです。

例えば、右手の上腕だけ筋力が落ち始めたり、左足だけ歩きにくくなるなどのことがよくあります。
はじめは症状がなかった部位も、数年して症状が出てくるということがあります。
同じ家族の中でも、症状の進み方には差があります。
どこに症状が出るかは、個人差がかなり大きく、予測するのは難しいです。
筋肉痛や痛みの伴わない程度の軽い運動をしてもこの病気を悪化させるという報告はなく、むしろ有酸素運動は心身に良いという研究結果もあります。
無理のない運動であれば、例えば水泳などを楽しんでいる患者さんもいます。
また、寿命についても明らかな影響があるといった報告はなく、長年付き合っていく病気といえます。
筋肉以外の症状
FSHDは筋肉の病気ですが、筋肉以外の症状がともなう場合もあります。
痛みの悩みを抱える患者さんが半数ほどいます。
痛みの原因は様々ではっきりしていませんが、肩のあたりに痛みを慢性的に持つ患者の方は多いです。
貼るタイプ、塗るタイプ、飲むタイプの痛み止めや、漢方などで緩和できているという例もあります。
疲労を感じやすいのも特徴です。

高い周波数の音が聞こえない難聴になることがあります。
これは通常の聴力検査で気付くことができます。
眼の奥の毛細血管に出血が見られ、視野の一部が見えにくくなる場合が稀にあります。
コーツ病とも言われますが、これは眼科での眼底検査で気付くことができます。
不整脈が見られることがありますが、心臓機能への影響は不明です。
これは心電図の検査によって気づくことができます。
てんかんなどの症状もごくまれに出る場合があると言われます。
大切なことは、これらは必ず起きる症状ではなく、また、起きた場合も対処法があるということです。
定期的な検査によって早くに気づくことができるでしょう。
早期発症型、小児型のケース
一部の患者さんでは、10歳前までに明らかに症状が見られる場合があります。
これらのケースでは、他のケースに比べ症状の進行が早く、重度の状態になりやすいです。
また、筋肉以外の症状がともなう確率も高くなります。
FSHDの全体のケースの中では多くはないものの、基本的には同じ仕組みで病気が起こります。
こうした早期発症型については、これからより一層のケアや、研究による理解、認知度を高める活動が必要です。
誤診断の可能性
筋肉の病気には、原因が異なるたくさんの病気があります。
FSHDの場合は、一部の肢体型筋ジストロフィーなどの別疾患と症状が似ており、誤ってFSHD と診断される場合があります。
本当にFSHDであるかどうかは、血液からDNAをとり、専用の遺伝学的検査を行うことでほとんどの場合は分かります。
別の病気である場合は、別の治療法が有効な場合があります。
まだ遺伝子検査による確定診断をされてない方は、主治医に相談して遺伝学的検査をご検討ください。
心の問題
この病気は、ほとんどの場合は直接的には心の働きに影響することはありません。
しかし、家族、学校、職場、友人、他人など周囲との社会的関係の中で、病気や障害について思うように理解を得ることができず、精神的な悩みや孤独感、うつ等の問題を抱えてしまう場合もあります。

表情が乏しく映ってしまうことも、周囲から誤解されてしまうきっかけになりえます。
また、自分の状態に対する自身の理解や自己受容が上手くできないことも、精神的な健康状態に悪影響を与える場合があります。
こうした場合には、認知行動療法などの選択肢があり、状態の改善が期待できる場合があります。
主治医やカウンセリング(特に遺伝カウンセリング)の窓口に相談することができます。


また、同病の当事者同士で悩みを共有したり、他の当事者の話を聞くだけでも、状態の改善が期待できます。

患者会からひとこと
このように、FSHDは同じ病名でも個人差が大きいことが特徴です。
症状が軽く自力で日常生活を送られている方も、重度の障害のためヘルパーサービスを必要としている方もいます。
分かり合えることも分かりあえないことも有るのが現実ですが、同じ疾患を持ってるがゆえに助け合えることもたくさんあります。
患者会としては、たくさんの当事者に関わっていただきながら、ご家族含めあらゆるレベルで悩みを抱えるFSHD当事者のために活動するよう努めています。
大切なことは、多くの当事者は病気の診断を受けたことで、辛さを抱えながらも、自分や家族の状態の理由がわかって、工夫を重ねて、前を見て過ごせているということです。
困っていることも、もしかしたら同病の誰かが答えを持ってるかもしれません。
そうした知恵を共有する場として、ぜひ患者会をご利用ください。