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執筆者の写真FSHDJapan

FSHD ニュースレター Vol.2

更新日:2023年9月21日



2023年5月21日、FSHD生活向上委員会の第4回がZOOMにて開催されました。この度は、薬の開発が進んでいる現状を共有するべく、FSHD Society(アメリカ患者会)のMs. June Kinoshita氏を招待し、「FSHD治療薬の開発動向と患者参画の重要性」について語っていただきました。


・2025年の治療法確立を目指して

FSHD Societyは、2025年までに治療法を確立することを目標に活動しています。これは、希望であって、保証ではありません。しかし、同氏は、野心的な目標を掲げて、多くの関係者を巻き込み、その活動を加速していく事の重要性を強調しました。


・FSHDのメカニズム

FSHDのメカニズムについても説明しました。DUX4という遺伝子が活性化し、筋肉にダメージを与えるという現象を指摘しました。通常は成人になるとDUX4は不活性化しますが、FSHD患者の場合は活性化したままになると説明しました。


・創薬の状況

多くの企業がDUX4を標的とした新薬の開発を進めています。Renogenyx、EpiThe4FSHD、 Altay、 Fulcrum、Myoceaなどが挙げられます。また、RNAを標的としてAvidity、Arrowhead、Dyne、miRecule、Armatusなどが新薬開発を進め、RNAに作用してその活性化を阻止しようとしています。

さらに、タンパク質を生成する過程での働きかけや、生成された後の筋肉の修復など各段階でのアプローチを試みている企業もあります。Hoffman-La Roche、Myogenica、Vita Therapeutics社などが挙げられます。

(​下表は、主に進捗状況が第二相にあるものを列挙しています。)

治療薬名

製薬会社

進捗状況

治療手段

Losmapimod

Fulcrum

第三相

酵素(p38MAPK)阻害薬

AOC1020

Avidity

第二相

DUX4標的とするRNAセラピー

RO07024239

Hoffman-La Roche

第二相

Myostatin阻害薬

Dyne-301

Dyne

Preclinical

DUX4を標的とするRNAセラピー



・医薬品の承認までの過程

新薬が公式に承認されるまでの過程についても説明しました。まず、新薬はINDと呼ばれる初期段階を経て、毒性や有効成分の残留度などのデータを収集します。その後、FDAに申請し、3段階の臨床試験(フェーズ1、2、3)を経て承認が下ります。

現在、losmapimodは、第3相試験を行っており、RO7204239とAOC1020は2相試験を開始しています。また、ARO-DUX4は近いうちに2相試験を始める予定です。他にもDyne301は来年に試験を開始し、MyoceaとEpic BioはINDの実験段階にあります。


・薬が世に出るまで

同氏は、患者コミュニティの活動の重要性と、データ収集の必要性について強調しました。特に日本には、治験施設や研究者が存在するため、国内治験実施の潜在的な可能性があると述べました。大切なのは、どれだけ多くの関係者がFSHDにフォーカスしているか、とのことです。


・新薬の開発の成功には

FSHDに関する新薬の開発ですが、その成功は患者のコミュニティ、医療機関(データ)、関心を持つ企業の協力、そして研究者やインフラがそろった環境が必要です。これら全てがFSHDにフォーカスして動き、治験を進めることで、各々の歯車がスムーズに動き始めます。そのためには、患者登録が重要で、それによって患者が活発に参加できるようになります。日本も進んでいますが、まだまだ足りない部分もあります。


・患者個人としてできること

FSHD Society(U.S)は患者により発足され、情報を必要と感じた患者自身が行動したのです。各国で同じような取り組みが必要で、気づき、意識を高めていくことが重要です。そのためにも、多くの参加者が必要です。

患者個人としてできることは多くあります。まず、医師による診断(DNA検査)を受けることが重要です。その上で、患者レジストリRemudyに登録すること。そして、臨床治験のボランティアに参加することや、FSHDジャパンに参加することです。また、周囲との協力が大事なので、まずは身近な家族などに積極的に話していくべきです。


・International Research Congress

また、30年の歴史を誇るInternational Research Congressにも注目しています。研究者の発表、話し合いが行われ、座長を務めるガゼリーニ教授は素晴らしい人物です。今年は6月15日と16日にイタリア・ミラノで開催され、医師・研究者の方々の参加を期待しています。また、25か国以上でアライアンスを結成しているFSHDはグローバルな取り組みが重要であり、そのために6月17日と18日には患者会も行われます(日本も参加予定)。


・医療経済学

最近注目されている医療経済学の観点からも、患者数、治療にアクセスするためのコストと効果のバランスを考慮する必要があります。希少疾患における医療経済学は非常に重要です。希少疾患は一般的に発症者数が少なく、治療コストが高い傾向があります。治療コストがその社会的効果に見合うか?といった要素が重要となります。(例えば、治療コストが上昇しても介護コスト等が減少すれば、社会的効果の向上が期待できます。)


・コラボレーション

コラボレーションの面でも、行政に患者の声を届けるために、国際ネットワークとの連携が重要となります。医師にもFSHDについての啓発が必要で、FSHD Societyは世界に向けてオンライン研修会も一部の国で実施しています。FSHD JAPANもワールドアライアンスメンバーとして当初より活動しています。


・QAセッション

Q1現在進行中の治験と副作用について

フルクラム社のロスマピモド(losmapimod)は、第2フェーズ治験が完了しました。全ての筋肉でDUX4が活性化しているわけではないため、筋生検での評価が難しいとの結果が示されました。しかしながら、一部患者において腕の動きの維持、向上の成果が見られ、全体としては良い方向に進んでいると考えられています。


Q2複数の治験参加の条件について

ロスマピモド(losmapimod)の治験参加者は、30日間のウォッシュアウトピリオド(休止期間)を経た後、Avidity社のAOC1020の治験に参加することが可能となっています。


Q3FSHD治験促進のための取り組みについて

FDAの承認を受けた後、日本での承認のプロセスを検討する必要があります。今後は日本でもブリッジング試験が必要かどうかが課題となりそうです。

(ブリッジング試験とは、新薬が海外で開発・承認された後、その薬物が日本人に対しても有効であることを確認するために実施される臨床試験のことを指します。)


Q4FSHDの診断について

確定診断が進んでいない患者が多いとの見解が示されました。診断は軽症患者に対して特に進んでおらず、一般病院での診断は困難であるとの報告があります。


Q5FSHD治療における認知療法の必要性について

日本では、認知療法の導入が十分でないとの見解が示されました。フィジカルセラピーは存在しますが、認知療法に関するアクセスは良くない状況となっています。


Q6日本でのFSHD医療の状況について

東京、大阪(主要都市)では、一定程度医師から情報を得られる一方で、地方では情報取得が難しいとの報告があります。


Q7治療薬の服用について

第三相まで進んでいる低分子薬剤のロスマピモド(losmapimod)と第二相のRNAセラピーAOC1020は、いずれも生涯服用が必要とされています。ロスマピモドは一日2錠、AOC1020は静脈注射による治療となります。


Q8治療薬の作用について

ロスマピモド(losmapimod)は、FSHDの進行を遅らせる、止める効果が期待されております。AOC1020はDUX4を直接ターゲットにしたRNAセラピーです。先行して筋強直性ジストロフィーに対する治験を実施しているRNAセラピーAOC1001は良好な結果が得られているとの報告があります。


Q9治療費について

治療費は開発コストなど複数の要素で決定されると予想されます。現在のところ、日本においては、FSHDは、「特定疾患」(難病)に指定されており、特定疾患医療費助成制度の対象となっており、患者には、大きな経済的負担がかからないと考えられています。


・最後に

以上が最新の情報です。今後もFSHD分科会、JMDA協会の活動を通じて、皆様に有益な情報を提供してまいります。

今後のFSHD治療薬の展望や国内での治験の可能性について、ますます期待が高まっております。

一方で、欧米の承認薬のうち、約70%が国内未承認という「ドラッグ・ラグ」「ドラッグ・ロス」といった厳しい現実があります。

「活発な患者会がはじめの歯車を回し、他のすべての歯車を動かしていくのです!」と講演でもありました。今こそ、患者一人一人が団結して、国内での治験の実現に向けて準備を進めていく時です。

引き続き、FSHD分科会の活動にご理解とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。今後のイベントや勉強会にもぜひご参加いただき、FSHDの治療と生活の向上に向けた共同の努力を続けてまいりましょう。

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