1.治療薬の開発動向について
昨年(2022年10月)の国際患者会(World FSHD Aliance Meetng)は大変エキサイティングな内容でした。
特筆すべきは国際治験で進行中のロスマピモド(Losmapimod)が第 3 相臨床試験において大変有望なデータを示してる点です。
開発元の製薬会社のフルクラム(Fulcrum Therapeutics)によると、第 3 相臨床試験では、最大 2年間、薬を服用している患者において、病気の進行を遅らせたり、止めたりする効果が確認されています。FSHD の進行を 2 年間にわたって遅らせたり止めたりする能力が持続していることは、ロスマピモド が 最初に承認されるFSHD治療薬になる可能性を示唆しています。なお、ロスマピモド以外にも下表の通り複数の治療薬が開発されています。(第 2相臨床試験に入ったものだけを列記)
治療薬名 (開発コード) | 製薬会社 | 進捗状況 | 治療手段 |
ロスマピモド | フルクラム(アメリカ) | 第 3 相 | p38α/β MAPK 阻害薬 |
AOC 1020 | アビディティ(アメリカ) | 第 2相 | 核酸医薬 |
GYM329 | ロシュ(スイス) | 第 2相 | マイオ スタチン阻害薬 |
それでは、今後、ロスマピモドが第 3 相臨床試験をクリアし、アメリカの規制当局である FDA で承認されたと仮定すると、日本での治療薬の保険適用(薬価収載)は、どうなっていくのでしょうか。
まずは、製薬会社のフルクラムが国内でロスマピモド治療薬を展開・販売の計画をし、国内治験を実施し、厚生労働省(PMDA)が治療薬の承認をする必要があります。
ここでの重要なポイントは、製薬会社の視点で見たときに、国内でFSHD患者は、一体、何人いるか?といった点です。FSHD推定患者数は、15,000人(注1)いるのですが、あくまで推定です。遺伝学上FSHDと診断確定(注2)し、患者登録した患者数は、2022年11月時点で161人です。今後、私たちは、患者の力を結集して、患者登録を強力に進めていく必要があります。1人より、100人、100人より1000人。「数は力なり」です。フルクラム をはじめとする国内外の製薬会社に日本にも、これだけの数のFSHD患者が存在して、日本でも治療薬を展開・販売すれば採算が十分見込めるということをアピールしていく必要があります。
(注1)最近の論文で一般的にFSHDの発症確率は、8000人に一人と言われており、日本の総人口1憶2千万で試算。
(注2)FSHDの遺伝学的診断法は時代によって変遷(積み重ね)を遂げています。FSHDの発症メカニズムが確定していない以上、真の意味での確定診断法はまだ確立しておらずあくまで、現時点の要求レベルでの診断という意味。
国内想定患者数 | 登録依頼数 | Remudy開始時期 | |
FSHD | 15,000人 | 161人 | 2020年9月 |
DM(筋強直性ジストロフィー) | 10,000人 | 1170人 | 2014年10月 |
DMD/BMD/IMD ジストロフィノパチー | 確認中 | 2,104人 | 2009年7月 |
2.Remudy患者登録について
皆さんRemudy患者登録はお済みでしょうか。
FSHDのRemudy患者登録は、2020年9月から開始されました。Remudy患者登録できる方は、遺伝子検査で診断が確定している方です。2018年6月以前に遺伝子検査された方は、追加の検査が必要になることがあります。
分科会の一人のメンバーは、FSHD診断は14歳の時に遺伝子診断を実施したのでFSHD診断は、確定してると思っていました。主治医もそのような認識でした。しかしながら、今回、Remudy患者登録を通じて診断がまだ確定していないと知りました 。
以前は、第4染色体の D 4 Z4という部分の DNA が短くなっている(リピート回数が6回以下)結果で FSHD1と診断してましたが、近年の遺伝学的解析の進歩に伴い、 DNA が短くなっている(リピート回数が6回以下)場合でも、ハプロタイプ解析の結果によっては、 FSHD1でない方が稀にいることがわかりました。そのため FSHD1診断を確定するためにはハプロタイプ解析という詳しい検査を追加で実施する必要があります。(FSHD患者のほとんど(9割以上)はFSHD1で、残りがFSHD2になります。)
下の図解の引用元はNCNPより。
Remudy事務局に電話したところまだ多くのお医者さん(臨床医)がハプロタイプ解析の追加診断のことを知らないとのことです。
そこで今回、分科会事務局としてはRemudy患者登録を通じて確定診断させることをお勧めします。患者登録申請をすると、Remudy事務局から主治医のお医者さんにハプロタイプの追加解析の必要性のレターが 届けられる仕組みとなっています。
(ハプロタイプのところは、専門的で患者ではわかりにくい箇所ですので、この仕組みは大変助かりますね。)なお、ハプロタイプ解析には、検体が不足する場合追加採血が必要なことがあります。
話が少し脱線しますが、以前の国際患者会で南アフリカ共和国の遺伝子診断の状況についてお話があったので共有したいと思います。南アフリカ国内では遺伝子診断ができないのでアメリカの大学のサポートを得て遺伝子診断を進めることを検討してるようです。また費用面でも遺伝子診断の費用は決して安くないのでそこにも苦労はあるようです。
日本の場合は大変恵まれており、国内で遺伝子診断ができる体制もあり、費用負担は、公的な研究費用で実施されますので患者の費用負担はありません。(登録用紙の郵送代などは、自己負担です。)
是非この機会にREMUDY登録を通じての確定診断をお勧めします。
Remudy患者登録のメリットを以下にまとめます。
・Remudy患者登録申請を通じて、治験参加や治療選択に要求される最新レベルの診断が行われます。
(注3)(注4)
・毎年患者の身体状態のデータを更新していく必要があるので医学的な健康状態を客観的に 知ることができます。
・Remudyは、海外患者登録(TREAT-NMD)と連携しているので国際共同治験の参加基盤づくりに繋がります。
補足:今回、ロスマピモドの国際共同治験には、参加できていませんが、今後、登録者数が大幅に増えていけば 国際共同治験の参加の道も開けることも期待できます。 国際共同治験に参加できると、国際同時承認が可能になり、メディカルドラッグラグ(注5)の解消に繋がります。
(注3)治験リクルートは患者自身がリスクありと判断すれば断ることができます。
(注4)Remudy患者登録をしなくても主治医等を通じて、治験に参加することは可能です。治験は企業が立案・計画して実施するもので、どのような形でリクルートを行うかは企業の意思で決まります。
(注5)海外で既に承認されている薬が日本国内で承認されるまでに、長い年月を要するという問題。
3.治験、治療薬の勉強会について
当然、治験にはリスクが伴います。今後、患者会で各種治療薬の勉強会を開催することも企画しています。二重盲検試験とは何か?ドラッグリポジショニングとは何か?マイオ スタチン阻害薬とは何か?など。基本的なところからみんなで勉強していきましょう。
4.まとめ
以下の通りまとめます。
ロスマピモドが第 3 相臨床試験において大変有望なデータを示しています。
患者登録者数を大幅に増やし、国内外の製薬会社に強力にアピールしていく必要があります。
近年の遺伝学的解析の進歩に伴い、ハプロタイプ解析という詳しい検査を追加で実施する必要があります。
今後、登録者数が大幅に増えていけば、 国際共同治験に参加、国際同時承認が可能になり、メディカルドラッグラグの解消に繋がります。
Remudy患者登録は、患者個人のメリットのみならず、患者全体のメリットに寄与します。
治験参加にはリスクを伴うので治療薬のメカニズムについて勉強会を今後、企画します。
1年でも早く、1ヶ月でも早く治療を開始する。私たちの想いは同じです。
REMUDYの登録者数の促進、各種治療薬の勉強会、国際治験参加の基盤づくり、国産治療薬の開発支援などにみんなで力を合わせて未来の扉を開きましょう。
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